ひじきの朝/大塚智穂

  「ちほちゃん、2月28日が大潮だから朝6時30分頃に再びひじきを見に行こうと思う」と、『その船にのって』にも寄稿しているカヤックの山ちゃんが、声をかけてくれた。再び、というのは、1か月前の大潮の日にも同じようにひじきを見に行こうとしたけれど、ほとんど育っていなかったので、延期になっていたのだ。

ひじきやわかめの旬が「春」だと知ったのは、小豆島へ来てからだ。

数年前はそれを知って大きな剪定バサミを携え、波打ち際でわかめと格闘し、すぐに茹でて食べ、その美味しさに感動したものだった。今回はひじきだ。

当日。

5:45に目覚まし時計が鳴る。

ああぁ、寒い。

5:50に再びアラームが鳴る。

次に目が覚めた時は6時25分だった。

飛び起きて、完全防寒し、ポットに熱いお茶を入れ、10分後には車を発進させて現場へ向った。

むかう先は家のすくない半島の先。

口に入るものなので、海がきれいな方が良い。

くねくね道は左手が海、右手は山で、他に何も見えない。

海から朝陽が昇っていくのが見える。それはそれは本当に綺麗で、でもiPhoneでは撮りきれない景色なのはわかっている。いま、ブンブン車で走っている私だけが見ている景色を見ながら「あ、去年も綺麗だな…って思ったんだった。」と思い出した。

やまちゃんの車が見えた。長靴に履き替え、浜へ向う。ピカピカに光る朝陽は海にも反射してキラキラしている。逆光でよく見えないけれど、遠くに山ちゃんがいるのが分かった。さらに奥にも人がいるようだけれど、逆光で全く見えない。でも、磯でキャッキャしているので若い娘さんが2人いることが分かった。

「ちほちゃん、おはよ~。そんなに育ってないんだ~。でも、生えているよ。」と山ちゃんが教えてくれた。岩場についているひじきは、たしかにそんなに育ってはいなくて、短めだった。前にきた時のひじきは長く伸びていたので、それに比べると短めのひじきが岩場にくっついていて、波にかかったりかからなかったりしている。鎌で刈り取るように収穫する。あまり下の方から取ってしまうと、岩もついてきてしまうので、少し上から刈り取る。家で食べる分くらいのひじきを海からおすそ分けしてもらう。岩場をまじまじと見ると、小さいけれど牡蠣がくっついている。山ちゃんに、「この牡蠣は食べられるの?」と聞くと、「小さいけれど食べられるよ~」とその辺に転がっていた手頃な石でカンカンっと叩くと、牡蠣のフタがとれて、小さな小さな身が出てきた。やまちゃんはそれをツルッと食べた。「うん、牡蠣だ」と山ちゃん。残念ながら私は牡蠣が食べられないので、その様子を見ていると、奥でキャッキャしていた若い娘さんが近くまできてくれて、自己紹介をする。山ちゃんのカフェ(タコのまくら)の新しいスタッフのみゆきちゃんと、お友達のしずかちゃんだった。2人もキャッキャとちびちびの牡蠣を味見をして「あ!!!牡蠣だ!!!」といくつか食べていた。山ちゃんは色々と物知りで、生えている海藻や貝はたいてい名前を知っていて、フサフサとした海藻をみてこれはなに?!と聞くと「虎のしっぽだよ」と教えてくれた。

30分ほどで自宅用のひじきがあつまったので、さて、帰りますか~と、車の方へ歩きだす。そうそう、熱いお茶と紙コップを持ってきていたので、海を見ながら4人でシェアして飲むと体の中から温まった。なんとも良い1日のはじまりだった。

さて、ひじきはそのままでは食べられない。大きな鍋でぐらぐらと何時間か炊き、天日にほしたら良いのだ。沸騰したお湯にひじきを入れると、サーっときれいな緑色になる。そしてしばらくすると黒っぽい色になるのだ。今回は2~3時間炊き、お湯に漬けたまま翌日まで置いておいた。そうしてやわらかく茹で上がったひじきを干網にのせチリッチリになるまで干せば完成。さてさて、去年乾物にしたひじきもまだまだ家にあるので、しばらくはひじき三昧かな。

大塚 智穂

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