「福が来た」と、じいさんは言った。/小坂逸雄
年も明けたし大家のじいさんのところへ新年の挨拶に行かなきゃなぁと思っていた矢先、出会い頭的に原付に乗ったじいさんと遭遇。やあやあ元気そうだねと笑顔で手を振ると、じいさんは原付を止め「(新年)おめでとさん」と言いながらガサゴソと胸元の補聴器のスイッチを探しはじめた。胸元をガサゴソしながらゴニョゴニョ言っている。耳を傾けると、どうやら年末か年始に掃除機を踏んづけてダメにしてしまったのだという話をしている。掃除機を借りたいのかな?と思っていると電子レンジがどうのこうのと言い出した。掃除機の話じゃなかったんかい!というツッコミをガマンしてひとまずひと通り話を聞いてみると、どうやら新品の掃除機を買ったら新春の福袋キャンペーン的な期間中で、掃除機と一緒にオマケで電子レンジも届いたのだということだった。いろいろそこまでに至る話もしていたけど、よくわかんない。まぁ騙されたわけではなさそうだし、とにかくよかったね!いい新年じゃん!と肩を叩いたりして笑い合った。そんで本題はなに?と話題を待っていると、そんなこんなで自分が使わなくなった古い電子レンジを使わないかという提案をしてくれたのだった。
いままではこんな世間話を前振りに、いやぁ実はコレを手伝って欲しくてな、、、と本題を切り出すパターンばかりだったので、まさか投げ付けられたこんなシンプルな直球を見逃してしまった。いや、もはやこれはデッドボールだったか。不意打ちを食らいながら、ゴメンじいさん、ボクは電子レンジは好きじゃないのだ。と一瞬、躊躇したのだけど「福が来たわぁ」とじいさんは満面の笑み。これまでじいさんの福のおこぼれをたくさん授かってきたので、今回もありがたくあやかることにした。
新春早々、まさかの文明の利器が登場した我が家だけど、さてはてどんな一年になるのだろうか。説明書に載っていたレシピに挑戦してみようか。愛猫のためにお手製の餌なんぞをつくってみようか。未知の扉が突然現れたので、妙にソワソワしています。これが福というものなのか。じいさん、いつも本当にありがとう。
こちらはこんな感じで新年を迎えました。ともあれ皆さま、本年もどうぞよろしくお願い致します。
小坂逸雄
東京出身、小豆島在住。
2020年4月現在、高松にて養蜂の修行中。
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