網戸で夢うつつ/小坂逸雄
何年も使っている洗濯機なのに最近になって予約機能が付いていることを知った。夜に「約9時間後」というボタンを押すと確かに朝には洗濯が完了しているので重宝している。「約」というファジーな設定も気に入っている。
先日、屋根裏の寝室に網戸をこしらえた。古い木枠の窓だったのでアルミサッシのような機能的な網戸が設置できなかったのと、うちのドジな猫が落下するんじゃないかという心配もあって窓を開け放ったことがなかった。熱の籠もる屋根裏部屋に網戸を設置した効果はとても大きくて感動した。なんで今まで作らなかったんだろう、そこそこ涼しいじゃないか。前回も書いたけど、やっぱり僕は鈍いのだ。気付くのが遅い。海で泳いで身体を冷ましてからやんわりとした夜風をベッドでたのしみながら寝た。
明け方、ザーザーと滝のような音で目が覚めた。約9時間後の洗濯がはじまったのかなとムニャムニャしてその音を気にしていると、どうやら洗濯の音ではないらしい。はて、何のノイズだろう。音を分析してみるとそれは蝉の鳴き声だった。窓を開けた屋根裏の窓から鳴き声が流れ込み、寝ぼけているからか洪水のような轟音に聞こえる。朝からすごいんだなぁ。雨音だったらよかったのにな。あれ?本当は雨なのかな?と思って薄ら明るい窓の外を見るとやっぱり雨は降ってなかった。でも家の隣の畑に咲いている花が見えて朝から得した気持ちになった。そういえば目が覚めるまでに見ていた夢はたしか雨漏りに関係した物語だった気がする。
夏の暑さか湿度のせいか、洗濯も蝉も花もみんな幻みたいだった。夢うつつで儚げな時間がなんとも夏だなぁと思う。
小坂逸雄
東京出身、小豆島在住。
2020年4月現在、高松にて養蜂の修行中。
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