スイッチ/小坂逸雄

何かの用事で平野甲賀さん宅に立ち寄ったとき、甲賀さんが制作中の作品に引用した書籍の一節を見せてくれた。読んだことのない本だったけど、その一節は第二次大戦の終戦か開戦か、その頃の体験談らしかった。重苦しい情勢や心境が嫌でも伝わってくる。でもその文章から漂ってくる気迫からは、戦争の結果がどうなろうとも全てを受け入れる覚悟を持っていることが感じられた。その清さ、その境地よ。驚いたのは、その一節が「その船にのって」のロゴの横に添えられていたことだった。やっぱりこの船はそういう船だったのか。思わず大爆笑してしまったのだった。

そして今日、何かの話の流れから、とある小説家のデビュー作の話になった。その作品のすばらしさは、これまでの時代の価値観をパチっとスイッチを入れるようにして視点を変えてしまって、しかもそれに対して嫌な感じをまったく受けなかったことだ、とは、甲賀さんの奥様である公子さんの談。理論ではなく、物語でそれをやってしまったのがすごいとも言っていた。

そう、理論や理屈ではないのだ。この“船”も、言葉にすることのできない、何だかワケのわからないこの状況をどうにかして伝えたいのだ。いや「伝えたい」というのとも違う。理論や理屈や言葉でもないことを探している。

わからないことはおもしろい。わからないことだからといって、それがネガティブだということにはならないし。生きている以上、目にすることが現実以外の何モノでもないのだとしたら、あり得ないことが目の前で起きている方がよっぽど貴重だとすら思う。ファンタジーをもっともっと目撃したいとすら思う。

前回の投稿じゃないけど、その船にのってを通じて思うのは、何の役に立つかわからないけど、言葉にならない何かを、何らかの形として表現していきたいということ。そんなことを思い続けている昨今です。はい。




小坂逸雄
東京出身、小豆島在住。
2020年4月現在、高松にて養蜂の修行中。

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