やつらの季節がやってくる/小坂ひとみ
5月19日
まだ5月半ばだというのに、梅雨入りしてしまった。
去年の今頃の写真を見てみると、よく晴れた写真が多く、鶏はまだ産毛がそよぐヒナだった。
鶏舎の中に生えていたセロリは香りが強すぎるのかヒナたちは無関心で、同じく鶏舎内に生えていた菜花や高菜ばかりついばんでいた。人間の分のセロリが確保できそうだと喜んでいたのに、ちょうどこの頃から食の嗜好が変わったのか、突然セロリに目覚めて猛然と食べはじめた。そんな記憶がよみがえる。
今年のセロリはこぼれ種で鶏舎の外にたくさん生えた。今は鶏舎の中には草はひとつも生えていない。
暑くなってくると、憂鬱なことがある。どうしても蚊が苦手なのだ。かゆさに弱くて我慢ができない。こっちにフンワァッと近寄ってくる姿を見つけたら即手足をバタつかせて大行進するし、耳元気配を感じたら髪を振り乱して頭をブンブン振り回す。
刺されても、狂う。かゆみに支配されて他の感情が停止してしまう。
あまりにも翻弄されてしまうので、最近は見境なく対策を施している。
普段は人体や環境に対して極力刺激が少ない日用消耗品を愛用しているが、蚊避け関連のものに関しては超マッドである。ベープのミストをふんだんに体に吹き付け、キンチョーの蚊取り線香を腰からぶら下げ、畑に向かう。それでも刺されたら、すかさずムヒアルファEX。寝るときにはリキッドタイプの駆除剤を枕元にセット。ようやく安心して眠れる。
本当はこんなに気にしたくないし、心を乱されたくない。刺されても顔色ひとつ変えずポリリと上品に掻くくらいでとどめていたい。
蚊に対する構えがおおらかな人のことを尊敬している。
いつも軽装の夫は、蚊の多い時期の畑でも腕や足が隙だらけで、もちろん喰われまくっているけれど大して気にしていない。
元同居人のAちゃんも、蚊に刺されるとすごく腫れる体質で何日もかゆそうにしているというのに、「なぜ!?」と声を張り上げたくなるほど、体にとまっている蚊に対してお手柔らかだっだ。
彼らはペチンと叩かない。そのままにしておくか、やさしく振り払う、という仏のような行動をとる。うう、信じられない。
案の定、一瞬フンワァッと舞い上がって体から離れた蚊は、すぐまた腕や足や顔に着陸。たんまりと血を吸うのだった。見ていて耐えきれなくなった私が代わりにペチンとやってしまったことも多々あった。
そういえば鶏は去年の夏、小屋で世話をしているとき腕にとまった蚊を食べてくれた。そのやさしさ(?)に感激したのと同時に、鶏の目の良さにも驚いたっけ。
この梅雨が明けたら、長い長い夏が始まるのだろうか。
うだる暑さ、蚊の襲来、緑餌の不足。どうか無事に乗り切れますように。
ひとまずはしばらく続く湿っぽい毎日を、できるだけ機嫌よく過ごしたいと思っている。
高菜の茎に乗れるほど小さかった。
大きくなりましたねぇ。
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