大家の爺さんのイカ釣り、今期は終了。/小坂逸雄

(画像は加工してあります)

建物も場所も会社!って感じではないので、勤務時間中に近所のおばちゃんや観光客がよく事務所に立ち寄ったり迷い込んだりしてくる。港なのでそれなりに島の玄関のつもりでいるし、それなりに応対するし、それをそれなりにたのしんでもいる。犬の散歩ついでに寄ってくれるおばちゃんは野菜をくれたり、家庭菜園をやっているおばちゃんも野菜をくれたり、友だちはお昼のお弁当を食べにきたりおやつを持ってきてくれたり、移住の相談をしに来た方は丁寧に菓子折を持ってきてくださったりする。いろいろバリエーションはあるけど、人と一緒に食べ物がよく集まってくる。

そしてまた大家の爺さんさんがやってきた。「まぁちょっと座ろうや」と神妙な面持ちだが、口を開くとイカの話である。どうやら今年はイカが獲れなかったらしく嘆いていたが、ああだこうだ言いながらもけっこう笑顔だったりして、こちらもたのしく聞いてしまう。勤務時間中なのだが我が家の玄関先での調子とまったく変わらない。最近あんた家におらんからこっちに来たわ、と言いながらも、その「こっち」がボクの職場ということを気にする様子は微塵も感じられない。さすが長老なのだ。およそ30分間、思う存分おしゃべりをした爺さんは、それでも名残惜しそうに立ち去っていった。

一日も終わり帰宅し、夕食の準備をしようとキッチンに立つと爺さんの書き置きがあった。不作だったイカをお裾分けしてくれたらしい。事務所に立ち寄った後に我が家に侵入して、さらにイカが腐らないように冷蔵庫に入れてくれたのだ。ありがたくご馳走になろうと冷蔵庫からイカを取り出すと、きれいに内臓が取り除かれ下処理がされている。勤務時間中にやってきてしゃべり倒して帰っていく爺さんの立ち振る舞いとは真逆に思える丁寧な仕事に、爺さんの思いやりを感じて胸が熱くなった。

胸は熱くなりつつも、持ってきたイカの所在を伝える紙は、数日前にボクがあれこれ考えていた畑のプランを書き留めたメモ紙だった。しかもメモを置いてくれた場所がキッチンだったこともあって水で滲んでしまっていて、いくつかプランが読めなくなってしまっていた。いろいろたくさんありがたいが、いろいろさすが、そんなところがボクの大家の爺さんなのだ。




小坂逸雄
東京出身、小豆島在住。
2020年4月現在、高松にて養蜂の修行中。

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