大家の爺さんのイカ釣りを手伝う その1/小坂逸雄
現役こそ引退はしているものの、大家の爺さんは今も漁船を操り漁をしている。どんな魚種が獲れるのか詳細は不明だけど、爺さんが力を入れているのはイカらしい。春が近づいた3月末のイカ漁がいよいよ始まる季節に、やはり爺さんからお声がかかった。声がかかったといっても、倉庫にしまっている網を漁港まで運ぶというものだ。軽トラックに積んだら二往復くらい。時間にして20分弱といったところか。おやすいご用である。ボクに日中手伝う時間があれば朝早くからの水揚げにも立ち会うことが出来るのだけど、残念ながら今日まで立ち会うことが出来ずにいる。
爺さんのイカ漁は写真のような直径140cmほどの円柱の網を沈めておくというもので、漁のスタイルとしては前近代的でクラシックな部類になると思う。この網、畳んであるけど伸ばすとたぶん120cmくらいの高さの円柱になる。これに重りを付け、巨大なミノムシみたいなものをその円柱内にセットして沈めるんだそうだ。ミノムシは木の枝を束ねたもので、産卵に来るイカのためのワナらしい。網の数はボクが手伝った量にして100くらい。重りは網ひとつにいくつ付けるのか知らないけど、ミノムシは網の数だけつくる。なかなかの手間だ。ガツガツ捕まえるのではなくて、体力の限界=漁獲量!みたいな、「人間の知恵と体力」vs「イカの習性と活動時期」がほぼイーブンな関係がよくわかる。要するにイカに対してフェアな漁のスタイルなんだと思う。
5月も半ばに差し掛かったけど、はて、じいさんのイカ漁の調子はどんなものだろう。春の陽気というより、初夏の兆しも通り越してしまった。過ごしやすくなったこんな季節に、朝日が昇るのを見ながら爺さんと一緒におしゃべりがしたいなぁと思いつつ、今年もまた「イカ漁、手伝いますよ」と言えずにいる自分がもどかしい。
小坂逸雄
東京出身、小豆島在住。
2020年4月現在、高松にて養蜂の修行中。
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