豊島の鶏舎に行ってきた/小坂逸雄
桃子さんの寄稿を読んだら、その鶏舎とやらをひと目見たくなってしまったので豊島に行くことにした。同じ豊島に住むドンドロ浜商店の浦中嬢を運転手として駆り出し、車で鶏舎へと連れて行ってもらう。くねくねデコボコした島の道は長閑だったけど、車窓から見える新緑からは気合いが満ちていて、そのギャップがなんとも春だった。快晴で海も空も蒼く光っている。にわとり日和だなーとうっとりしていると車が止まった。鶏舎は山の斜面に建っていて岡山方面に開けていて気持ちよかった。その開放感がまたなんとも春だった。
小屋に入ると中にはさらに囲いがつくられていて、その囲いの中に一週間前やってきたという雛が60羽ほどひたすら走り回っている。走り回りながらピーピー鳴きわめき、その鳴き声がコーラス隊の練習のように響く。か、かわいい。。。雛は黒いポンポコリン状で手を差しのべると素直に乗ってきたりもする。無防備のポンポコリンに一撃でメロメロになってしまった。撫でたり匂いを嗅いだり餌を与えたりして、その都度いちいち大の大人が四人で悶絶している。変な集団だなコレ、、と我に返るも、またすぐに没入。そんなことを繰り返す。繰り返しているうちに、気分が少しハイになってきた。なんだろうこの間抜けになった気分は。長閑すぎる気もしたけど、構わずそんな時間をたのしむ。
お昼の時間になったので吉野家へと向かうことになった。雛たちに後ろ髪を引かれる思いで鶏舎を離れる。心を黒いポンポコリンにしながらフワフワと坂道を下って吉野家に着くと、今度は二匹の猫が僕たちを出迎えてくれた。吉野家、浦中嬢、ボクは皆が皆、猫を飼っている猫好きなのだ。またしても「かわいいねぇ」などといいながら大人四人が玄関前の日だまりで猫を撫でながらまったりする。谷崎潤一郎は猫を「日向臭いやさしい獣」と言ったらしいと以前、浦中嬢が教えてくれた。まさにそんな感じだった。
鶏や猫に時間を支配されながら、その日はあまりに長閑すぎてせっかくの聖さんたちのお話も頭に残っていない。間抜けすぎなこんな脳みそで申し訳ない。でも、動物というものと一緒に過ごす時間の奥深さよ。家畜ってのは野菜を育てるのとは違う時間のダイナミズムがある。かわいいかわいいとはいいながらも、これからの暮らしの中に鶏という人間ではないものを受け入れた吉野家の静かな迫力を、その慎ましい笑顔に見るのだった。
小坂逸雄
小坂逸雄
東京出身、小豆島在住。
2020年4月現在、高松にて養蜂の修行中。
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