移動日/小坂逸雄

3月29日、高松港で平野公子さんに見送られながら、平野甲賀さんと一緒にタクシーで高松空港へと向かった。その日は二日後に迫った台中(台湾)で開催される甲賀さんの展覧会のための移動日で、春めいた暖かな陽気だった。空港までの道中、甲賀さんはあてのない話をしていたが、その表情から訪台を心待ちにしていたその胸中を察した。これまで小豆島に来てからつくり続けてきた作品がようやく公開されるのだし感慨もひとしおだろう。ボクにしたってまさか小豆島に来て甲賀さん、もとい平野家とこのような時間を共にするとは思ってもみなかった。甲賀さんの話を間近で聞いていると、いろんな時間軸がこの台湾での展覧会めがけて交錯しているのを目の当たりにするようで、なんとも迫力がある。ありがたい限りである。

空港に着くとその雰囲気でまたいろいろと思い出が蘇ったようで、空港や海外旅行時のたのしいエピソードを聞かせてくれた。談笑しながら手荷物検査場に着いたのだけど、甲賀さんが係員に引き止められ手荷物をチェックされはじめた。コンパクトにまとめられた荷物だったので何かの間違いじゃないかと近づくと、出てきたのは小さな十徳ナイフだった。「これは持ち込めませんね」と係員の人。「なんでそんなの持ってきたの?」とボク。甲賀さんは特に気にしていない様子で「これ、いつもダメなんだよねぇ」と呑気なことを言っている。思わず声を上げて笑ってしまった。どうやら初犯ではなかったらしい。というか、本当になんで持ってきたんだ???

自分のことでは無いけれど、そのまま没収されるのも癪に障るし搭乗時間にもやや余裕があったので、先に甲賀さんだけ検査場をパスさせてから、そのナイフを持って受託荷物として預けにカウンターまで引き返した。小走りしながら甲賀さんのさっきのセリフを思い出し、また笑ってしまった。事態の渦中にいるのに傍観している感じがいかにも甲賀さんらしいのだけど、憎めない人柄というか当事者意識の無さに、むしろ達観の境地すら感じる。その佇まいからはコウガグロテスクの神髄も垣間見たようにも思える。はたまた、人生に対するユーモアとでも言うか。

小さなことには動じない、というよりも、アクシデントもたのしむ。そんな大先輩との台湾珍道中がこうして始まったのである。

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『平野甲賀の描き文字展  小豆島から台湾へ』

開催中!〜 5月14日(日)まで

装丁家の平野甲賀さんが小豆島に来てから毎日写経のように制作していた作品が、いよいよ各地へと飛び出します。展示第一弾は日本のお隣にある漢字の国、台湾(台中)からスタートです。よく知られた本の装丁からマニアックな舞台公演まで、これまで平野甲賀さんが手掛けてきた名作珍作がボリューム満点の70点超で大放出。作品はすべて台湾展特別価格(約3万円)で販売します。

オープン初日(3月31日)は平野甲賀さんも会場にいます。ぜひこの機会にご来場をお待ちしています!

会期 / 2017年3月31日(金)- 5月14日(日)※火・水休

時間 / 14:00 – 19:00

場所 / 綠光+marüte(台中市西區中興一巷2號)

入場 / 無料

お問い合わせ / その船にのって(donburako@sonofune.net / 担当:小坂)

日本語のイベントページはこちら → https://www.facebook.com/events/628047734035005/

台湾語のイベントページはこちら → https://www.facebook.com/events/387566861596317/




小坂逸雄
東京出身、小豆島在住。
2020年4月現在、高松にて養蜂の修行中。

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