大家の爺さんのシイタケづくりを手伝う その2/小坂逸雄

先日、縁側に置いていた多肉植物の上に座ってしまった大家の爺さんの手伝いで午後一番に裏山の畑へと向かった。畑と言っても今は雑木林になっていて、爺さんはそこに生えているドングリの木をシイタケの原木にしている。去年の暮れにそれらをチェーンソーを使って切り倒していたのだが、その日はそれを1mの長さに切る作業。現場に到着すると既に爺さんはチェーンソーをブイブイいわせて作業をはじめていた。すぐに駆け付けて加勢する。足場が確保できる作業しやすい木の根元側から1mずつ木の上の方に向かって切っていくのだが、移動するにつれて枝や葉が雑木と絡まっているので、その枝を切り落とし邪魔をしている雑木も切り倒し、藪から引きずり出してからカットしなければならない。これがなかなか難儀だった。不意に「うんとこどっこいしょー!」という叫び声が聞こえた。振り向くと、爺さんが雑木に絡まった木を抱えて引っ張っている。「うんとこどっこいしょー!」って言う人はじめて見たかもと、感動と笑いを堪えながら一緒に引っ張るけど力があまり入らない。けっきょくほぼ爺さんのパワーだけで藪から引きずり出してしまった。おそるべしパワーだ。

その日は全部で30〜40本ほど準備することができた。一本の木からだいたい10〜12カットしたので、20mは超える木だったのか。ファイト一発の奮闘よろしく作業後に爺さんはオロナミンCを飲みながら、いつものごとく昔話をゴニョゴニョと話しはじめた。雑木林となったこの山ではかつて桑を育てていたことがあるらしく、小豆島にも養蚕をやる人がいたんだそうだ。それは初耳だとフムフム聞いていると、桑の話からウサギ(その昔、爺さんの父さんが家業で飼育していた)の話、八朔の話へとすり替わっていった。あれれれ?と思っていると今度は今日つかった二種類のチェーンソーについての物語がはじまる。やがて昔のJA職員の話題へと移り、そしてまた八朔に戻っていった。結論としては「たくさん採れてしまった柑橘を持っていってくれ」ということだった。爺さんの話術、もといフェイントにみごと引っかかってしまい箱満載の柑橘を手渡されたが、八朔はひとつも入っていなかった。本当にすごい爺さんだと思った。




小坂逸雄
東京出身、小豆島在住。
2020年4月現在、高松にて養蜂の修行中。

0コメント

  • 1000 / 1000