島のパイセン/小坂逸雄
最近、朝によく顔を合わせるおっちゃんは釣りが好きらしく、その日の釣果をたのしそうにお話してくれる。ボクもかつて釣りにハマったクチなので、うらやましそうに聞いていると気持ちが伝わったのか「今度、やりましょう」と誘ってくれた。竿も貸してくれるというし、手ほどきもしてくれるという。ありがたい限りだ。ぜひぜひ、と約束を交わす。
その日は朝5時半に港で待ち合わせだったけど、おっちゃんはすでに場所を取って準備をすべて済ませていた。寝坊しなくて本当によかった。空も海も黒く、方向も距離もよくわからない中、おっちゃんの言われるがままに糸を垂らす。魚が釣れる時間にはまだ早いらしく、缶コーヒーを飲みながらそのタイミングを待っているボクの横で、おしゃべり好きのおっちゃんはひたすらしゃべり続けている。
おっちゃんはいろんなことを知っていた。潮汐の時間や魚の動き方、釣れる魚の種類とその食べ方、細かい話から勘で話していそうなことまでいろいろあったけど、要はすべて季節毎の海や空の様子や出来事にまつわることだった。
ボクの大家さんとお話をするときと似ている。大家さんは漁船を操り漁をする。山でシイタケも栽培してるし、その原木にする木も自分で切る。みかんも育てているし、葉物から根菜までいろいろ野菜も育てている。海や山の幸を通じて季節を知ることは家庭菜園レベル、素人の釣りレベルでもある程度できることだけど、この人たちのそれはもっと大きな、大気とか海流とか気温とか風向きとか、そういう大きさのものを感知している。そういう人たちと接しているととても気持ちがよくなる。
その日のボクの釣果は小ぶりの鯵が10匹、大きなウマヅラハギが1匹。港から歩いて帰る途中、観光案内所にいた別のおっちゃんが何を釣ったのか、とおもしろがって話しかけてきた。バケツを見せるとブツブツ言いながらウマヅラハギを取り出し、その場で手でビリビリ皮を剥きはじめた。あ、それボクがやりたかったんだけどな、と思っていると、別のおっちゃんが片刃の包丁を持ち出してきて(なぜ持ってたんだ?)、そうめんの木箱をまな板にして鯵を捌きはじめた。あ、それもやりたかったんだけど、、、。
釣りが目的だったけど、やっぱり釣ったからには調理をして味わうまでをひとつのイベントとしたかったボクのたのしみは、帰宅する前に強制終了となってしまった。釣れなかったときよりも質が悪い。でもまぁ、おっちゃんたちのイベントになったのなら、それはまたそれでいいか。島の先輩からは見習うことがたいへん多い。
小坂逸雄
東京出身、小豆島在住。
2020年4月現在、高松にて養蜂の修行中。
0コメント