この春/小坂ひとみ


6月3日


 

 春が淡々と、過ぎた。

 

今年の春は世界中がめまぐるしく変化していたのではないかと思う。これほど長く一人きりになって生活していた期間は、私の今までの人生をふり返ってみても、ちょっとなかった。けれど心の中はずっと落ち着かず、6月が始まった今、ようやく少しおさまったというところだ。

 

 3月と4月は、我が家の大変革期でもあった。となりの島で別居婚状態で暮らしていたのを完全同居に切り替えたのが12月。年明けから3月まで設備を整えて、4月から小規模養鶏を開始。ニワトリのヒナが来る1週間ちょっと前に夫は高松にも居をかまえ、養蜂の見習いの道へ。今度は週末婚状態になった。

 

 いや~、ドタバタした!めちゃくちゃなフォームで溺れかけながら泳ぐような手探りの日々のなか、どうにかそれぞれの新生活のスタートをきることができた。

 

 ヒナたち31羽が新築の鶏舎に入舎してからの2週間は、苦しくてつぶれそうで逃げ出したかった。

 

 その間に死んでしまったヒナの数が予想を超えて多く、「事前に学んだ知識のとおり世話をすれば、すべてうまくいく」と、どこか思い込んでいたのが崩れ去り、一気に暗闇に真っ逆さま。心細くて仕方がなかった。産毛ホワホワのヒナたちは、どうみても可愛くて癒しの固まりだというのに、ヒナの死に対面しすぎて、鶏舎に行くのが怖くなってしまっていた。

 

 3週目を過ぎると、ヒナの不調がぱたりと止まり、驚きのスピードで健やかに成長し出した。それにともなって私も暗く沈んだ場所から抜け出すことができた。「生きもの飼うのが向いてないのでは」と絶望していたのも、冷静になって原因の予想が立てられるようになってからは、「こういうことは今後も絶対にある!」と、少しは腹が据わった。またきっとオロオロしてしまうのだとは思うけれど。

 

 養鶏と畑をはじめてからは、けっこう肉体派(?)な生活を送っている。

 

 鶏舎のまわりに排水用の溝を掘るためスコップを振り回したり、畑の草刈りをしたり、たっぷりの水を両手に持って坂道を何往復もしたり…。全くやってこなかったことなのでヘトヘトなのだが、悪くないなと思っている。

 

 これからの先行きはなにもかも不透明だし、いつだって低所得でピンチなのだけれど、自分でも意外なほど心穏やかでいられている。肉体疲労って不安を吹き飛ばすのかしら。



小坂ひとみ
1986年生まれ。2012年に東京から瀬戸内海の豊島に移住。
現在は小豆島在住。夫と猫とともに暮らしている。

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