木こりのYくん/小坂逸雄

ここ最近は日本全国どこも同じだと思うけど、瀬戸内の小豆島も例外でなく寒い。あたたかいところという印象があるけどあくまで年間の平均気温が16度ということであって、冬はやっぱり寒いし冷え込む。バケツに張ってある水が凍っているときもある。そんな寒波がやってきたころ、同じ集落に住むYくんがボクの軽トラックを借りたいと訪ねてきた。切り倒したヒノキを運びたいのだという。なんだかボクと同じようなことをしてるんだなと思った。Yくんは普段からお茶目なところがあるのだが、その日も「軽トラは気にせず一日使っていいよ」と言ったにもかかわらず、キーを受け取って立ち去ったと思ったら「軽トラ使っている間、ボクの車使っていいよ」と伝えにわざわざ引き返してきたり、他にも何かを伝えるために、出発したかと見せかけてはボクのところに引き返してくることを何度かやっていた。気を遣ってくれているのだ。用件ひとつにつき一往復している様子を見ていたらおかしくなってきた。でもおかしいと思っているのはこちらだけで彼は真顔だ。いいやつだなと思った。夕方、用事を済ませた彼がキーを返しにやってきた。手に何かを持っていて、「お礼にどうぞ」と渡してくれたのは輪切りにされたヒノキだった。「これ、何かに使えると思って。鍋敷きとか」などと言っている。笑顔で。たぶんボクはこれを鍋敷きには使わないし、いったい何に使ったらいいのかわからない。彼もきっと本気でそうは思っていないし、何に使えるかもわかっていない。だけどなんだろう、荒々しい切り口や、触ると剝がれる樹皮、木がところどころ湿っていたこととかが、実に生々しくてやさしかった。使い道は不明だけど眺めていると少したのしい気分にさせてくれるというところも、とてもYくんらしく感じた点。素敵なものをいただいてしまいました。





小坂逸雄
東京出身、小豆島在住。
2020年4月現在、高松にて養蜂の修行中。

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