宿題/Nemu Kienzle

 スイスの学校では、1年生は宿題がほとんどなく、成績表は点数ではなくニコニコマーク(良い)かへの字マーク(良くない)で表されます。小学校に入っても遊ぶことを忘れないでのびのびと学べるシステムになっています。休暇中の宿題もないし、幼稚園と違うのは小学校にリュックを背負って通学するだけ。たまに出る宿題も、やりたくないからってリュックごと学校に置いて来ちゃう子もいるのです。

 2年生になると、宿題が週三回出されます。宿題のない水曜日と金曜日はおおいに遊べます。でも遊んでばかりいられない2年生。なぜかというと、2年生になるとテストがはじまるからです。テストの成績は色で表されます。緑が優秀、黄色が普通、オレンジが注意、赤が不良です。採点されたテスト用紙を、子供達はワクワクまたは渋々とうちに持って帰ってきます。そして、親から署名をもらってまた先生に提出しなければなりません。こうすることによって、保護者に子供の学力を知ってもってもらうのです。もうその効果はバッチリです。親は連絡帳に挟まっているテスト用紙を見る度、宝くじの当選番号発表を見る気分になります。「あ、すごい頑張ったね!(にんまり)」とか「ほ、ほかにも同点だった子いた?(冷や汗)」など一喜一憂ですよ。

りりは算数が苦手で、100までの足し算、引き算がなかなかできませんでした。10までの計算だったら両手を広げて「いち、にー、さん、しー、、、」と『手のひら電卓』が使えたのに、100となるとそうはいきません。ある日、100までの計算(例えば「29+34=◯」)の宿題を持って帰ってきました。りり、どうする?!そっと子供部屋を覗くと、リュックから何かがいっぱい入っている東京ディズニーランドのビニール袋をガバッと出しました。そしてその中身を豪快にバサーッと勉強机にちらばした!!そして「いちー、にー、さーん、、、」と数えてる!!なんと、それはりりの消しゴムのコレクションで、これを『消しゴム電卓』として数えて計算に使っていたのです。「まさか100個はないよね?」と聞くと、「学校の廊下で拾ったのと、大きいのは小さく切ったから100個ある」とのこと。消しゴムを100個集めて毎日学校に持ち帰りする気力があるなら、わたしだったらさっさと暗算を覚えるところ。なのに、こういう発想に至るところがりりらしい。案の定、机の上がごったがえして、消しゴムの山に埋もれて宿題の紙すら見えない。「これ、まさかいつも算数の授業でやってないでしょうね?」と聞くと、「わたしだけじゃないよ、マカロニやクリップを100個持って来る子もいるよ!」と言う。「そっちの方が持ち運びやすくて計算しやすいじゃん!」といいたいのをこらえ、消しゴムの山と戦っているりりを遠くから細い目で見守っていました。またしばらくしてりりの勉強机に来ると、ビンゴの懸賞でもらった大きい電卓が目に入りました。「なんでそれが机にあるの?」と目をつりあげてきくと、「あ、これわたしのコンピューター!」といって自慢げにパチパチてきとうに番号をうっています。「コンピューターってなにの?」「お仕事に決まってるでしょ!」と言うのですぐにわかりました。りりには、電卓が簡単な計算にも使えることが分かっていません。難しい、大人が使うコンピュータの仲間だと思っているのでしょう。電卓が目の前にあるのに、100個の消しゴムを1個づつ数えて計算しているりり。そのけなげな様子を覚えておいて、りりが大きくなったらぜひ話してあげたい、と思うのでした。

 そんなりりも、ぶじ小学3年生になりました。もうディズニーランドの袋は学校に持って行ってないところを見ると、100までの計算は暗算できるようになったのでしょう。でもまだ電卓の可能性には気がついていないようです。




キンツレねむ
NYで知り合ったドイツ人と結婚してスイスに越してもう10年。職業はインテリアデザイナー。7年前にタイから養子に来たりりは、いつのまにかやんちゃでかっこいい小学校2年生。

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