庭先養鶏はじめました8/よしのももこ

この8月で、この島へ来て2年が経ちました。引っ越しが決まったとき、私たち夫婦はまず「ゆうパックの一番大きいサイズで送れない家財はあきらめる!」という線を引き、持って行くものと処分するものをざっくり分けました。で、いったん「あきらめ枠」に入れられた物の中からあきらめきれない物たちを厳選し、車に猫と家族と一緒に積める分量だけをどうにかこうにか運んで来たのですが、冷凍冷蔵庫は「あきらめ枠」に入れられたまま手放すことになったのでした。冷蔵庫なしでの生活はもっと色々困ったことになるんじゃないかと思っていたけれど、実際やってみるとそうでもなかったなーというのが今のところの感想で、今回はそのことを少し書いてみようと思います。

東京で使っていた冷凍冷蔵庫は私の背丈よりも少し小さいくらいの2ドアタイプで、我が家と同じような家族構成でこの手のコンパクトサイズのものを使っている方にはお目にかかったことがまずありません(ひとん家に行ってダイニングキッチンに通されると「冷蔵庫でっかいなー!」と驚くのが定番)。でも、我が家の冷蔵庫がパンパンになることはほとんどありませんでした。理由としては、「まとめ買いをしないから」「作ったものはその場で食べ切ってしまうから」「ドレッシングなどは買わずに家にある調味料で適当に作るから」くらいしか思いつかないのですが、とにかく冷蔵庫内はスカスカなことが多く、むしろオマケみたいに付いている冷凍庫の方が常にギュウギュウで、冷蔵と冷凍の広さが逆ならいいのに!といつも思っていたくらい。

もともとそんな感じの暮らしぶりだったので、引っ越しを機に冷蔵庫なし生活を試してみることになったわけですが、「冷凍冷蔵庫なし」にしたのではなく冷凍専用庫を新たに導入しただけの話なので電力は変わらずバッキバキに使いますし、オフグリッドでもなければ地球に別段やさしくもありません。スーパーやコンビニのないこの島では生鮮食品を欲しいときにホイッと買えないので、まとまった量の食材が手に入ったときには中長期保存のテクニックが問われます。冷蔵庫を使わないとなると、干す・漬ける・発酵させるといった保存技術を徐々に身につけるしかない。それはわかっていたし、やる気もそこそこありました。あったんですけども、「いやいや私たち夫婦のポンコツ度をなめたらあかん!」「めんどくさくて片っ端からガーッと冷凍保存したくなる瞬間が必ず訪れるから!!」という判断で、島に着いてすぐ通販で冷凍専用庫を注文しました。引っ越しハイの中にあっても冷静さを失わなかった自分たちを、今となっては褒めてやりたいです。

それから2年。容量80Lちょいの冷凍専用庫を肉・魚・自分ちの畑で採れた野菜を中心としたストック食材の保管と保冷材の凍結に使い、牛乳・ジャム・豆腐・納豆などといった「凍らせるわけにはいかないけど常温保存も無理な食材」はクーラーボックスの中に保冷剤と一緒に入れて保管していますが、2度の真夏も特に問題なし。保冷材は 一日2〜3回の頻度で交換しなくてはならないので、家族全員が泊りがけで出かけるときにはクーラーボックスの中身も空っぽにする必要があって、まあそこが不便と言えば不便かも? という程度で、今年の異常な猛暑の中でも冷蔵庫がないことが原因で食べ物を腐らせてしまったことは一度もなく乗り切ってきました。

冷凍冷蔵庫をやめて冷凍庫&クーラーボックスを使ってみたところで世の中の何かが劇的に変わったり良くなったりするわけではありません。でも、今40代の私たち夫婦にとっては子供の頃から「台所には大きな冷凍冷蔵庫がある」というのが見慣れた光景で、その「当たり前」をまっさらな(は無理だけどできるだけそれに近い)目で改めて点検してみるというか、「本当にこうである必要あるのかな?」って疑ってみるといろいろ見えて来るものがあります。使い慣れたシステム以外にも方法があるなら知っておいた方がいいし、実際に稼働させてみた経験がいざというときの力になるように思うし、なにより、ちょっと足りないくらいの設備にしておくとあれこれ工夫し始めるんですよね、どんなポンコツ人間でも。それがなかなか面白い。

この島に来てからというもの、毎朝目覚めてから夜眠るまでの時間の流れがとにかく速いです。小さな「やること」が無数にあって、それらを一つひとつ、特にはりきるでもなく、ただやる。そうかと思えば小一時間ぼーっと寝転んでみたりと、小さな「無為の時間」もたくさんあって、そうこうしているうちに月日が静かに積み重なっていきます。で、気が付けば2年。しわも増えたし白髪も増えた。でも私も連れ合いも、やっていることは2年前とさほど変わりありません。島の中で顔見知りの人が増えたことが一番の変化かな、という感じです。

転校初日の朝に玄関の前で撮ったせがれの写真があって、先日久しぶりに見てみたら、そこには「不安そうな顔で、身を軽くちぢめて立っている少年」が写っていました。その少年が2年後の夏には友達と連れだってお祭りへ行って、焼きそばを買って食べたり光る腕輪を買ってみたりして、親なんかそっちのけでワイワイ楽しむようになるわけで、なんだかすごいなあと。胸のあたりがキュイッとなりました。彼にとっての2年間は、体験の密度が私たちとは全然違うんだろうな。まあ、とにかく毎日元気そうになんだかんだやってるから、よかったよかった。

(2018/09/14 掲載)


よしのももこ
1974年東京多摩地区生まれ。2016年より豊島在住。
2017年春から夫婦で養鶏と卵売り。一児の母。



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