庭先養鶏はじめました5/よしのももこ

鶏たちは7/20で100日齢になりました。人間の100日祝いといえば“お食い初め”なんていって赤ちゃんに「お膳の料理を食べてまーす」風の小芝居をしてもらったりしつつも、実際には「ようやく首が据わって視野が広がったね!」みたいな段階ですよね。でも鶏の場合は割としょっぱなから完成に近い状態でこの世に登場しているので、給餌器にごはんを入れた端からガツガツと突っつき回し、「虫はいねがー!」と地面を掘りまくり、ムカデを見つけたら独り占めしてこっそり食べようとダッシュで逃げ、それに気づいた仲間は横取りしようとこれまたダッシュで追いかけ、お世話係がおやつの雑草を持って鶏舎に入るとビートルズファンの女の子並みの歓声をあげて群がってくる…と、産まれた翌日からやってることはほとんど同じ。でもサイズが5倍くらいになって、もう雛とは呼べないルックスです。鳴き声も「ピイピイ」を卒業して「コッコッコ」に近くなってきました。

みんな元気です!と書きたいところなのですが、朝の見回りに行った鶏舎長(夫)がすでに冷たくなっている雛を見つけたことがこれまでに二度ありました。どちらも激しい雷雨の晩の出来事。雷鳴に驚いたのか、たくさんの雛が一か所に集まった際に圧死してしまったようです。鶏は高いところで眠りたがる習性を持っているはずなのに、今回我が家にやってきた群れはどういうわけかその癖がなかなか身につかず、結構からだが大きくなってからもみんな地べたで寝ていました。圧死を心配した鶏舎長は毎晩毎晩鶏たちが寝る時間に見回りに行って根気よく上へ上へと誘導していただけに、もっと良い対策が取れたんじゃないかと悔いが残るようで、「いちいち落ち込んどったら鶏なんか飼えへんけど…」と言いつつも数日どんよりしていました。

こんな感じで実際に鶏飼いとしての歩みをはじめてみると、本などに書いてある通りには進まないことだらけ。でも、目的が“鶏が少しでも気持ちの良い環境で元気に暮らすこと”という一点のみなのでとてもわかりやすく、こんなポンコツ夫婦でもアイディアを出し合いながら試行錯誤を繰り返しているうちにどうにかこうにか鶏飼い街道を走行できるようになってきました(※蛇行運転ですが)。

私たち家族が小屋を建てて鶏飼いの仕事をさせてもらっているのは、山の斜面にある、野鳥の声が優勢で人の気配が薄い静かな農場の一角です。ときおり仕事の手を止めて瀬戸内海に目をやり、白い波の線を描きながらのんびり行き交う船やその向こうに見える小豆島などをぼんやり眺めていると、毎日こんなに気持ちの良い場所でなすべき仕事を与えられているありがたさがおヘソの下あたりから湧き上がってじわじわとお腹じゅうに広がっていくのを感じます。

ここは、クリスチャンで農業技術者の藤崎盛一さんが1941(昭和16)年に入植し、賀川豊彦氏が提唱した立体農業の研究・実践を進めつつ“豊島農民福音学校”という農民教育の学び舎を開いていた農場の跡地です。現在この場所を守っている光子さんと出会い、色々な話をする中で、30年くらい前まではここでも鶏をたくさん飼っていたことや毎朝集めた産みたて卵を自転車で家浦まで届けていたことなどを教えてもらいました。そして、「むかし豚や山羊を飼っていた建物を片付ければ使えるから、そこで鶏飼ったらええが」と声をかけてくれたのです。

「またここで鶏の声が聞こえるようになったら私も嬉しいし、父も母も喜ぶと思う」という光子さんの言葉を聞いたとき、私は目の前がぱあっと明るく照らされたような気がしました。自分たちの働きが、自分たちだけの喜びで終わらずに誰かの喜びにつながる。この連載の第3回で、自然卵養鶏家の中島正さんの本から発せられていたメッセージを“真っ暗闇の中に小さな隙間から差し込むひとすじの光”と例えましたが、そのか細い光が一気に広がった瞬間でした。まさに“光子”さんパワー!

それから何度か光子さんの家を訪ねて、四面開放の平飼いでやりたいこと、鶏が自由につっついてかき回せる土の床が必須なことなど、私たちがチャレンジしようとしている養鶏について説明を重ね、元豚舎の建物の横に新しく鶏舎を建ててやらせてもらえることになり、今に至ります。東京にいた頃は「豊島に引っ越したら、いつか農民福音学校の跡地も見学させてもらえるといいね!」なんて夫婦でぼんやり夢見ていただけだったこの場所をまさかの急展開で使わせていただけることになっただけでも驚きなのに、鶏舎の建設地がここに定まった瞬間からさまざまなことが一気に動き始め回り始め、鶏舎建設の材料からアドバイザーまで、予期せぬ出会いや助けの手が立て続けにもたらされたのでした。

(2017/08/15 掲載)


よしのももこ
1974年東京多摩地区生まれ。2016年より豊島在住。
2017年春から夫婦で養鶏と卵売り。一児の母。

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