森の誕生日会/Nemu Kienzle
(リリ作、誕生日会招待状)
生後16ヶ月に養子にきてくれたリリは、4月で10歳になりました。養子に来た当時は、生後6ヶ月の赤ちゃんと間違えられるぐらい小さかったのに、いまではぐんぐん背が伸びて、靴のサイズは私より大きくなりました。「ママー、待ってー」と後ろを追っかけて来ていた娘が、あっという間に私より早く歩くようになって「ママ、もっと早く歩けないの?」と言うまでに成長するとは。
誕生日を1ヶ月後に控えたある日、リリがベットに座って何か一生懸命書いています。「何してるの?」と聞くと、誕生日会に呼びたい友達の名前を書いている、と言う。リリが小さかった頃は、友達と喧嘩するたびに「もう誕生日会に呼ばない!」が口癖だったぐらい、誕生日に呼ばれるということは子供にとって大切なこと。今は、もう喧嘩したからと言ってリストから名前を消したり足したりすることはありません。普通、子供の誕生日会に呼ぶ人数は年齢プラス1が適当、というけれど、リリの誕生日に11人のプレティーンと一日中過ごす体力なんて私にはゼロ。でも、リリは絶対に呼びたい大切なお友達だからと言って、リストに書いた10人を譲りません。もしかしたら予定が入っていて来られない子もいるかもしれないので、リストはそのままにしておくことにしました。
さて、10歳の誕生日はどうやってお祝いしよう。あーでもない、こうでもない、と家族会議をした結果、うちのすぐそばにある森で誕生日を祝うことになりました。4月だからまだ寒い日もあるし、運良く晴れだといいけどなと心配だったけれど、年頃の子供が狭いアパートにいるより外で遊ぶほうがいいと思ったので、全員一致で決定。場所は、森でジョギングをしているピーターがよく見かける良さそうなスポットを教えてもらうことにしました。
森に行くと決まった後は、日時、集合場所を書いた招待状。リリの友達ニコラが自分で描いたイラストをフォトショップでレイアウトして招待状を自作したと聞いて、私もリリに自分で作ってもらうことにしました。カードの表には、リリがネットで選んだ狼の写真の隣に「リリ 10歳の誕生日会」と書き、裏には自分で書いた招待文、集合時間と場所をコピーして、ハサミで切って貼り付けました。その日は、「明日、学校で友達に招待状を渡すのが楽しみで寝むれない!」と興奮していました。
それからリリは、時間があると自分で作った誕生日会のメモに色々書き足しています。みんなでやりたいゲーム、食べたいお菓子、などなど。森でやると楽しいゲームは『キツネ狩り』。これは1番目の紙に、次の場所に隠してある2番目の紙のヒントが書いてあって、それをゴールにたどり着くまで順番に探すというゲームです。これを作るために、ピーターは誕生日会の前日に森に行って、コースの順序を決め、ヒントとイラストを一枚づつ紙に書きました。
誕生日会の当日は、運良く晴天で気温も高く、森へ行くにはとっておきのお天気。朝から嬉しくてソワソワ、いつもより声が大きいリリ。ピーターは、キツネ狩りのヒントを隠しに、お菓子や飲み物をリュックに担いで先に森へ行きました。その後にリリと私も集合場所へ出発。リリの友達がみんな集まったところで、バスに乗って森の入り口まで行きました。男の子4人、女の子5人はお互いに見知らぬ顔もあるので、バスでは静かに座っていたのに、バスから降りて1番目のヒントの紙を開けた途端に状況が急変化。「こっちかも!」「あの木だよ!」「見つけたよー!」と、男女問わず力を合わせて次のヒントの紙を探すのに大忙し。これでみんなお互いに慣れたかな、とホッとしていたと思ったら、次のヒントが見つからない。どこを探してもない。ピーターに電話して聞いてみてもわからない。そこで諦めてピーターの見つけたという穴場の方向に歩いていると、1人が「あ、あそこに焚き火の煙が見える!きっとゴールはあそこだ!」と言って走って行った。ピーターが焚き火の準備をしているところで、その横にある木の下にはお菓子がたくさん入った宝箱がありました。お菓子よりも子供達は焚き火のお手伝いが楽しいらしく、木の幹や枝を集めてきては新聞紙でパタパタ火を仰いだり、木の枝を切ったり忙しい。それから拾ってきた長い枝に、細長くしたピザ生地をくるくる巻きつけ、焚き火の上で焼いて食べました。出来立ての棒パンは外がカリカリ、中はほっくりでなんとも美味しいのです。
おやつの後はゲームの時間。まずは、横一列に並んだ子供達を端から1、2、3、1、2、3と数え、3チームを結成。そして、各自にチーム名を考えてもらって、ゲームスタート!まずはスプーンに乗せたピンポンのボールを落とさずに木の周りを一周してくるゲーム。ピンポンのボールは軽いので落ちた後に山をコロコロ転がって行きます。落した人は、ボールを拾いに行ったら落とした場所からもう一度スタート。一番早く3人がボールを持って走ったチームの勝ち。次のゲームは、山水が流れ出ている水飲み場で、お箸を使って水に浮かんでいるピンポンボールを反対側まで運ぶゲーム。説明をしている途中で、お箸を使ったことがない子供からブーイングが。でも実際に始めると、お箸を使ったことがない子も工夫したお箸の持ち方でちゃんとボールを運んでいました。それから数々のゲームをして、最後に優勝したチームにはルービックキューブがプレゼントされました。いまの時代、ルービックキューブなんて知っているのかな?と、思いきや、負けたチームの子供と取り合いになる程人気で驚きました。
ゲームの後は、うちに帰るまで自由時間。拾った枝を積み重ねて隠れ家を作っている子もいれば、焚き火の周りに座っておしゃべりをしている子もいるし、かくれんぼをして遊んでいる子もいる。帰りのバスでは、男の子も女の子も混ざって仲良くはしゃいでいる様子を見て、なんだかとても嬉しかった。バス停に子供達を迎えにきたお父さんやお母さんは、土まみれで焚き火臭くなった子供達を見て驚いていたけれど、「今度、うちも森に行こうよ!」と言っている子どもを見て苦笑していた。平日は宿題やお稽古に追われ、週末はサッカーの試合やテスト勉強に追われている子供が、のんびり森に行ける時間なんてほとんどない今。またいつか、別の機会にリリの友達と一緒に森に遊びに行きたいな、と思いました。
▲ キツネ狩りで、ヒントを書いた紙を探している子供達
▲ 焚き火を囲んで一休み
▲ トランシーバーで探偵ごっこをするリリ
キンツレねむ
NYで知り合ったドイツ人と結婚してスイスに越してもう10年。職業はインテリアデザイナー。7年前にタイから養子に来たりりは、いつのまにかやんちゃでかっこいい小学校2年生。
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