スイスの冬/Nemu Kienzle

 標高の高いスイスの冬は早くやってきます。10月になると寒い風が吹き始め、日の出ている時間が短くなってきます。これからはじまる寒く長い冬を思って気が重くなります。11月に入ると前触れなく初雪が降ります。スノータイヤにかえていない車が滑って交通事故が所々で発生するのもこの季節です。でも雪が降るとわたしにとっては好都合なんです。

 8歳の娘りりは朝が大の苦手で、「おはよー、あさだよー!」と何回言っても布団の中から出てきません。でも、「昨晩雪が降って、今朝は外真っ白だよ!」と言うと、喜び勇んでガバッとベットから飛び起きて窓辺に走っていきます。こういうとき、毎日雪が降ってほしい!と親は思うんですね。ある日、マンションの住人が中庭に雪だるまを作りました。りりはこの雪だるまが気になって、「まだ雪だるまあるかな?溶けてないかな?」と、毎朝楽しみに起きました。これも冬のおかげです。

 12月になると、一回降った雪は溶けてしまうけれど、クリスマスシーズンがはじまり、街がクリスマスの飾り付けで華やかになります。クリスマス前は朝8時にやっと日が昇り、夕方4時半にはすでにあたりは真っ暗になります。朝、まだ真っ暗な中を子供達が登校する姿に見慣れるまでかなり時間がかかりました。12月の朝は、カーテンをあけても外は暗くて何も見えません。こんな時は、唯一りりを起こす理由にアドベントカレンダーがあります。12月1日からクリスマスの25日まで毎日一つづつ開ける小さなプレゼントの入ったカレンダーです。チョコレートが入ったカレンダーを買う人もいるし、プレゼントが入った袋に1から25まで番号を書いたりと、家庭によってさまざまです。りりは毎年、夫ピーターの親友夫婦から手作りのアドベントカレンダーを貰います。プレゼントは大きかったり、小さかったり毎日まちまちですが、中身が凝ってることといったら!かわいいケースに入ったミニ文房具セット、水でつける刺青シール(もったいなくて永久保存)、トナカイの形のグミキャンディー(その日に食べた)、馬の形をした消しゴム(学校に持って行って見せびらかした)、などなど。

 12月21日は一年で一番暗い日といわれており、それ以降はまた徐々に日の出が長くなっていきます。朝起きて外が暗いと、どうも起きた気がしなくて、一日の始まりがだるく感じますが、ちょっとでも明るくなってくると春への希望が見えてきてホッとします。これで、長い冬も半分乗り越えたぞ~!という感じ。

 そして1月になるとまた寒さが厳しくなり、今度は終わりもなく雪が降り、気温はマイナスになります。毎朝、重いスノーブーツを履いてルンルン登校するりり。時には、近所のクラスメートが早めに迎えに来て、登校前に雪合戦をしてから学校へ向かいます。また、凍ってつるつるした丘をおしりで滑ってあそんでいるらしく、うちに帰ってくるとダウンジャケットの裾がびしょびしょに濡れて黒ずんでいます。学校の休憩時間に全校で雪合戦をすることもあるそうで、そういう日は興奮してうちに帰ってきます。週末は、スキーズボンとスキージャケットを着てアパートの裏にある丘にソリ滑りに行きます。完全装備することによって、ソリから落ちても雪の上を転がる楽しさが味わえるからです。りりは雪が大好きで、登校中、ソリ滑り中、いつでも雪を食べています。なので、「黄色い雪は食べるな」とよく言いますが、「犬がオシッコをする位置よりも高いところにある雪を食べてね」と教えました。

 2月になると寒さがピークになって、2週間学校がお休みなります。これはスポーツ休暇と呼ばれていて、子供達がスキーやスケートをするためのお休みです。2週間お休みをとってスキー旅行に行けるような余裕のある家族はほとんどいないので、たいていは1週目か2週目に1週間旅行に行くうちが殆どだと思います。このスポーツ休暇のおかげで、わたしもスキーをする機会に恵まれ、スキーが大好きになりました。りりはというと、スキーが上達したので、今度はスノボを習いたいと言って、自主的にスノーボード教室に通い始めました。スキー派のわたしとピーターはちょっと寂しい。だって、スキーの方が滑っている姿が断然エレガントなのにね。

 2月下旬になると、待雪草が溶けた雪のあいだから真っ白なかわいらしい頭をぴょっこり出して、冬の終わりを告げます。これを見ると、ああ楽しかった冬ももう終わりかぁ、と残念に感じるのはなぜでしょうか。

▲ 近所の坂でソリ滑り

▲ スノボレッスンが終わってホッとして雪にねそべるりり

▲ 冬の黄昏時。雪山と空の色に心をうばわれることしばしば




キンツレねむ
NYで知り合ったドイツ人と結婚してスイスに越してもう10年。職業はインテリアデザイナー。7年前にタイから養子に来たりりは、いつのまにかやんちゃでかっこいい小学校2年生。

0コメント

  • 1000 / 1000